ちょっといっぷく 第77話
第77話 原点復帰・凡事徹底
昨年(2002年)7月1日開館した雲仙岳災害記念館の入館者が好調のようである。
これは運営に携わる役職員や従業員のみなさん。そして、県当局を始めとする沢山の関係者の努力とご支援の賜物であると喜んでいる。
今全国のテーマパーク等が苦戦しているなかで、一人勝ちしているディズニーの勝因を知りたいと思い『ディズニー7つの法則(日経BP社・トム・コネラン著)』や最近発売された『海を越える想像力(講談社・加賀見俊夫著)』を読んだ。
50キロメートル圏に2,500万人もの人口を抱える立地条件のよさ、今度のディズニーシーへの投資総額3,350億円、舞浜地区全体では2001年4年間で5,000億円の投資額、東京ディズニーランドの入場者年間1,700万人というスケールの大きさからみて、到底比較対象にはならないと思うが、その底流にある基本理念とか運営のコツなどは大も小もない、相通ずるものがあると思うし、テーマパークに限らず一般の企業経営や商店経営についても示唆があると思われる。一つでも二つでもヒントが得られ役にたつならば望外の喜びであると思い取り上げた。
まず一貫して流れるものは『顧客本位』ということである。いかにして顧客を満足させるか、質の高いサービスを徹底的にしようと全員が努力しているのである。一つの例として掃除がある。
いつかディズニーランドに行ったことがあるが、あの広大な場内にチリ一つ落ちてないのに驚いた記憶がある。その秘密は客が来る前、午前3時からずっとスタッフが清掃していることも驚きだが、この会社の全員がゴミを拾う。つまり肩書やポストに関係なく2万人の従業員全員がゴミを見つければ身をかがめて拾う。こうした些細なことが全員の気持ちをひとつにさせる。
つまり全員が清掃スタッフであり、きれいにすることがディズニーの文化として定着している。
顧客満足度世界一、リピート率95%という驚異的な数字は従業員の『もてなしの心』だという。サービスのスタンダードと強調される4つの原則がある。
S=Safety…安全性
C=Courtesty…礼儀正しさ
S=Show…ショー
E=Efficiency…効率
この順番を間違って、効率が優先されることは絶対にない。
どこよりも美しく清潔であり、どこよりも素晴らしいサービスを提供し続けているディズニー社のアイズナー会長はいう。
「ディズニーの秘密なんて別に複雑でもないし、定型もない。
ゴミが落ちていたら拾って清潔にしておく。
人々にやさしく接し、笑顔で対応する。魅力的であること。
それは大したことでもなんでもないんだ」
当たり前のことを当たり前にやる、まるで自宅にお客様を招くときのような気持ちで心を込めて接待するだけのこと、というが当たりまえのことを当たり前にやることがいかに難しいか。『凡事徹底』という言葉が生きてくる。
東京ディズニーランドの加賀見社長は、「われわれのビジネスは顧客満足度で成り立っている。日々原点に返れ。それが経済判断を誤らない道だ。予想以上の順調さで進んでいるにもかかわらず成功に安住する恐ろしさ、事業の成功は運がよかったのであって、自分たちの実力だと勘違いしては困る。初心を失ったとき、運も離れてく。今からが本当の勝負だと心に決めて、色紙に書くことばは常に『初心』だそうだ。
そう遠くない昔、石油販売業を営んでいたときのモットーは『原点復帰・凡事徹底』であったことを思い出した。
常に反省と改善を忘れないこと、進化を止めたとき、それは老化の始まりともいう。
記念館の今後は、まず周遊コースを完成させる。即ち単体で存在する施設をすべて有機的に結び付けて、楽しみを倍加する仕掛けを考え、段階的に充実を図っていく。その次に海を目指すべきだろう。南側空地の利用も考えられる。幸いにして自然の舞台装置には恵まれており、投資額は少なくてすむのではないか。災害の暗さ、侘しさを排除したロマンティックなパークも必要ではないか。
グッズの問題も検討に値する。
ディズニーではグッズの売上が初年度800億円、運営上多大の貢献をしているとあるが、従来博物館、美術館は知識を持ち帰ってもらうのが本筋で、観光名所のおみやげやさんの領分には立ち入らないということだったらしい。しかし文化施設も採算性をという改革機運がある。この状況下で「物販収入」をふやすことが運営上重要になってきた。
内外の博物館に詳しい小泉成史氏「ショップはいわばもう一つの展示室、たんなる物販スペースではなく、品物自体に発見や驚きがほしいと語る。(02.9.7日経新聞)東京芸大美術館(東京上野公園)のショップでは芸術品の『本物』感覚の商品を提供しているそうだが、ディズニーがウソを本当らしく見せるのではなく、ウソをウソらしく見せることにあるとすれば、こちらは「本物を本物らしくみせる」というコンセプトで『ここでしか買えない』商品開発に力を貸してもらったらどうであろうか。さらに商品開発力を磨いていく努力を続けて欲しいのである。
(前島原商工会議所会頭)
2003年8月19日