ちょっといっぷく 第25話
第25話 2度目の還暦
島原商工会議所創立60周年記念講演で漫画家の富永一朗氏の話を聞いた。
氏は大正14年生まれ、台南師範を出て、大分で4年間教員生活を送り、昭和26年に漫画界に転身、筆舌に尽くし難い苦労の末、「チンコロ姐ちゃん」の代表作がヒット、日本漫画家協会賞大賞や紫綬褒章を受章、全国に名を知られた。「人生みな恩人」どん底の時代、いろいろな人から助けられ、茨の道をくぐり抜けた逞しい道程は、同年代の我々に響くものがあった。
さすがプロだと思ったのは、アトラクションで漫画を描いて見せたが、一本の線の使い方で、男の顔が女に見えたり、お婆さんになったり、見事であった。平成元年から糖尿病を患い、健康管理のために毎日努めて歩いているそうだ。
彼の願いは茶寿(108歳)まで生きて、最上等のブランデーをなみなみと注いだ風呂に入り、美味しいお茶をいっぱい飲んであの世へ行きたいのだそうだ。人生の幸福は、杖を使わずにいつまで歩けるかであり、普段から腿の筋肉を鍛えよとの健康談義を熱っぽく語っていた。
昔、知人から「祝長寿」の見出しで、揮毫された立派な額をいただいて保存している。
還暦 命の六十に迎えが来たら とんでもないと追いかえせ
古希 命の七十に迎えが来たら まだまだ早いとつっぱなせ
喜寿 命の七十七に迎えが来たら せくな老いらくこれからよ
傘寿 命の八十に迎えが来たら なんのなんのまだ役にたつ
米寿 命の八十八に迎えが来たら もうすこし米をたべてから
卒寿 命の九十に迎えが来たら 年に卒業がないはずだ
白寿 命の九十九に迎えが来たら 百の祝が終るまで
茶寿 命の百八に迎えが来たら 百八まだまだ茶が飲みたらん
皇寿 命の百十一に迎えが来たら そろそろゆずるか日本一
富永一朗氏は茶寿までと言うが、九十九ホテルの大場千年会長はすでに卒寿を迎えてなお矍鑠(かくしゃく)たるものあり、皇寿まではと心中期するところあらんと、本人に確かめたところ、なんと還暦を2回(即ち120歳)して、生前に告別式をやるのだ。
妻が亡くなった時に1,200人から香典をもらったので、女房には負けられん。生前葬をやって女房より香典の数の多いのを見定めてあの世へ行きたい。とおっしゃる。
いやはや長生きするには、生に対する凄まじい執着心と底抜けの明るさが必要なのかもしれない。
(島原商工会議所会頭)
2000年(平成12年)11月29日