ちょっといっぷく 第68話
第68話 日はまた昇る
日本の将来について、悲観論、楽観論がかまびすしい。我々はこういう時、一方に偏向することなく、両論に耳をかたむける冷静さと、バランス感覚が必要だ。
いま日本にもっとも欠けているのは、しっかりとした国家戦略、国際戦略が示されないことだろう。いうまでもなく一連の寄稿文はすべて私の主張ではない。読者が判断し自らのアイデンティティを確立するために、その材料を断片的に提供しお節介をしているだけのことである。
アメリカの著名な未来学者ハーマン・カーンによって創設されたアメリカ屈指の民間シンクタンク「ハドソン研究所」というのがある。
70年代、世界にパニック的状況を与えた石油ショックがあった。この時世界的権威とされたローマ・クラブによって人口の急増と、石油価格の急騰(資源の枯渇)のため、世界の成長は止まり、やがて衰微していくであろうという、いわゆる「成長の限界」が声高に唱えられていた時代、カーンはその悲観論を一蹴し「日本の大躍進」を予言した。
そして今、転換点にある日本に向かってハドソン研究所の面々は、各自の専門分野において「日本が21世紀の世界をリードするであろう」と予言している。
その本の名前は『超大国日本は必ず甦る』(ハドソン研究所・徳間書店)である。
日本経済再生についてこう述べている。
夜明けが一番暗い。日本の経済はすべての面で最悪の状況である。しかし日本は成長を重ねるためのしっかりした土台を持っている。労働力の勤勉さと教育水準は世界でも指折り、近代に入ってかたは、先行き不透明な停滞期におちいるたびに、日本はより強大になって復活した。今日直面する一連の問題は、19世紀半ばや1945年に直面した困難に比べれば何ほどのこともない。
しかるべき政策と確固たる指導力がうまく組み合わさったなら必ず解決できるだろう。
カーンは技術こそ問題解決のキーワードだという。例えば高齢化と技術についてこう述べる。
長期的にみれば高齢化は、多くの人々が予測するような悲惨な結果にはならない。ロボット工学、生命科学、医療の各分野でたえず技術革命と進歩が遂げられているからだ。
職場にロボット工学が導入され、肉体的にやや衰えた人も現在は人間の細かい手作業が不可欠とされている領域でさえ、問題なく働けるようになるだろう。そしてあたらしい生命工学技術が数多く開発され肉体を衰えさせるさまざまな病気が根絶されようとしている。
心臓、手足、眼球など数多くの器官を人工器官に取り換えることで、遠からずわれわれは100歳をはるかに超えて現役で働き続けられるようになるはずだ。
年をとることにより記憶力の低下は、化学ないし電子工学で対応できるだろう。例えば携帯型のコンピューターや電子機器に記憶できる情報量が増えて、通信や商取引の詳細な記録を長時間保存できるようになれば、記憶力低下の問題はさほど重要ではなくなる。日本ほど優れた想像力と製造技術をもって、ありとあらゆる活動分野にコンピューターを導入してきた社会はない。
20世紀初め、資源の乏しい、鉱物の枯渇した日本が高精密化学部品等を製造し、輸出するようになると誰が想像したであろうか。
技術は人類の未来をにぎるカギだ。人類を想像もつかないほど健康に、豊かに、生産してくれるだろう。そして日本は創意工夫に富んだ国民のおかげで技術進歩の最先端に、人類を率いる軍団の先頭に立ち続けるはずだ。
このように失意に沈んでしまっている日本人に対して信じられないほど高い評価を与え期待されている。この専門家集団はこぞって明るい輝かしい日本の未来を予想しているのである。
日本人は、日本人の持つ潜在能力に期待するとともに、希望と自信を持つべきであろう。しかしながら前提条件として、指導者の確かな国家戦略と強力なリーダーシップがもとめられるのではあるまいか。
(前島原商工会議所会頭)
2003年6月17日