ちょっといっぷく 第67話

第67話 合衆国日本州

ことわっておくが、これは水木楊(作家)のフィクション(事実によらず想像で書かれた物語)である。昨年文芸春秋5月号に掲載された。

あらすじは、流通大手が民事再生法の適用をうけ倒産することから始まる。デフレの深刻化で景気が悪化。国債の格付けがそれまでのAAからさらにAに引き下げられた。このために銀行は膨大な評価損が発生。株価が下落、政府は取り付け騒ぎを防ぐため銀行の国有化を宣言、預金を全額保護することにした。

1946年2月、終戦から半年後実施された預金封鎖が実施され、同時にデノミネーション(貨幣の呼称単位の切り下げのこと)を実行することになる。

デノミによって新しく制定された貨幣単位は「両」。その下が「文」。(両と文の呼称が水木流で面白い)。1ドル=1.42両の新通貨制度が発足する。

世論の反発で、小泉内閣は解散に打って出るが、いまの連立の仕組みでは支えきれず新しい内閣が誕生する。経常収支・資本収支ともに赤字に転じ企業も個人もドル保有へと傾斜していく。

日本経済の一大バーゲンセールが始まる。国有化された銀行は、欧米の銀行が二束三文で買いとっていった。

世界の二つの巨大経済大国、一つは米国。この国は国民が1年間に働いて作り出したモノとサービスの合計よりも多くを消費する。経常収支は慢性的に赤字となる。この国の赤字(輸入)によって世界は潤っているのである。一方は日本、米国と逆で、国民が生み出すモノとサービスの合計より少なくしか消費しない。当然余剰が出る。これを資本として米国に輸出してきた。つまり日本の資本輸出によって米国は過大な消費を続け、世界経済を支えてきた。日本の国際収支が赤字に転落したとなると、この構造は根本からかわることになる。

話はEUに及ぶ。かつて7つの海を支配した英国は、その栄光を捨て、EUの一員となって溶け込んでいった。EUは通貨を統一しただけではなく、近い将来、政治も統合しようとしている。同じことがどうして世界の第1位と第2位の米国-日本間では始まらないのか。モノ、カネ、人、情報実態経済面ではすでに一体化が始まっているにもかかわらずだ。「完全なる同盟」とは、国と国との合併である。EUが複数の国々の対等合併なら、こちらは米国による日本の吸収合併になる。即ち日本が米国の51番目の州になるということであろう。

米国の51番目の州になることによって、日銀に代わるTOKYO連銀は、為替相場に頭を悩ませる必要はない。ドルと両は一対一に近いからドルへの移行は簡単だ。問題の多い外務省はいらない。財務省、農水省、経済省ばどはワシントンの出先機関に格下げ、自分で自分の面倒をみるという医療制度が実現、食糧、エネルギーの自給率は飛躍的に上昇、沖縄の基地問題も一夜にして解決、もはやアジアに対しての戦争責任で頭を下げ続けることもない。

国内では新党が結成され、さらに新しい党首が生まれた。「米国との完璧なる同盟」という政策を打ち出し、総選挙の結果国民の支持を得て圧勝した。

かくて日米大合併は実現した。合併の効果はたちどころに現れた。

ワシントンは不法に「米国人」を拉致した北朝鮮に強く抗議、直ちに身柄を引き渡すよう要求した。要求に応じない場合はピョンヤン空爆も辞さぬ構えで、朝鮮半島沿岸に第7艦隊を配置した。北朝鮮はほどなく数人の「米国人」を引き渡した。

引き続き後の話が面白い。

ときは20年後の2024年秋、初の有色人大統領がホワイトハウス入りする。その名は黒沢一郎、48歳。世界のクロサワと同姓、大リーグで首位打者を取り続けたイチローと同名である。

人口1億2千万人の日本州は、大統領選挙人740名中202人を擁している。大統領を送り込むにはなお169人を必要とするが、ヒスパニック系とアジア系の票と連携することに成功したのである。

これぞアメリカ側にとって

『庇を貸して母屋を取られた』ということになろうか。

以上の分は一小節家が描く妄想として一笑に付すか、日本人よしっかりせい!!という警告とするか、読者の判断に任せたいと思う。

(前島原商工会議所会頭)

2003年6月10日

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