ちょっといっぷく 第56話

第56話 突入せよ!「あさま山荘」事件(続)

「あさま山荘」事件は、30年がたって、いま冷静に、客観的にやっと見直すことができる。

内閣の閣僚でもなく、どこかの国の大使でもない。まったく名もないいち主婦を、非人道的なテロリストの魔の手から救出するために自らの命をささげた正義の戦士たち、古今東西を問わず、類まれな使命感と忠誠心に燃えて、人の命を救うために己を犠牲にした勇敢な男たちの武勲は、次の世まで語り継がれるべき。平成の人々は、いま一度今はあまり評価されない男たちの勇気と犠牲的精神の尊さを見直すべき時がきているのではないか。

「あさま山荘」文庫本(佐々淳行著)あとがきより

 昨今の阪神大震災、地下鉄サリン事件をはじめとする一連のオウム犯罪への対応にみられる初動態勢への遅れや危機意識の欠如に対する貴重な警鐘として意義深い。随所に危機に際してのリーダーシップの重要さが強調されている。

これは露木茂(ニュースキャスター)の解説である。

著者の佐々氏は危機管理のオーソリティーである。参考になる言葉を拾いだしてみた。

※後藤田長官(当時の言)

人質九室が最高目的であり、犯人は全員生け捕りにせよ。射殺すると殉教者になり今後も尾をひく

※後藤田流人の使いの法則に三つの原則あり

明らかにワシより能力が上の者にはなにもいわん

明らかにワシより劣ってる者には叱ってもしょうがないから褒めて使う

同等の能力ありとみたら徹底的に叱ってしごく

※四方(佐々氏の本ではすでに千里になっている)に使いして君命を辱し(はずかし)めず=論語

「使命をおびてどこかに行こうと、わが君の名を辱しめないだけの能力をもて」の意

※牛刀はもって鶏を割く

「火は火花のうちに消せ」非常事態が発生すれば兵力の大量集中配備をなし、事態の早期収拾をはかる。

※士は己を知る者のために死す=史記

「男子はおのれのねうちを見抜いて待遇してくれる人のために身命を投げうつ」

(註)論語・史記の解釈は諸橋轍次著、中国古典名言辞典による

※危機管理情報処理の要請

「悪い情報は早く、聞きとりのまま。よい情報はゆっくり、確認したうえで」

※コーリン・パウエル(アメリカの国務長官)

「これはとてもどうしようもならないと絶望的に見えたことも、一眠りしてから見ると、さしたることでもない事に気づく」

最後に、東京都知事・石原慎太郎氏の映画「あさま山荘」事件によせたコメントは、

『あの時、日本の警察がしっかりしていたからこそ、過激派の組織暴力が全国に拡散していなかった。体を張り命がけで戦った男たちを、同世代の一人として誇りに思う』とあった。

(元島原商工会議所会頭)

2003年3月12日

 

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