ちょっといっぷく 第16話

第16話 長崎ぶらぶら節考

 

長崎の丸山に、生涯無償の愛に生きた愛八という名の芸者がいた。

直木賞に輝いた日本歌謡界の異才、なかにし礼の「長崎ぶらぶら節」は、天涯孤独の貧しい少女、お雪をはじめ多くの人々に、限りない人間愛をささげた愛八の一生を書いた物語である。

長崎一の学者・古賀十二郎との運命的な出会い。「おうち、おいと一緒に、長崎の古か歌ば探して歩かんね」と声をかけられ2人の歌探しがはじまる。大正14年、小浜の伊勢屋旅館で91歳になる小浜芸者の八重菊さんから、明治の初めまで花街でよく歌われていたという「ぶらぶら節」に出会う。丸3年がかりでやっと探し当てた歌だった。

昭和6年になって、詩人の西條八十の目に止まり、ビクターで電気吹き込み全国に発売された。歌と三味線は長崎一といわれる有名人であるから座敷によばれる回数も多く、ご祝儀も相当なものであったろうと思われるが、お雪という両親のいない貧しい少女の入院代に、すべてを注ぎ、病を冒してお百度を踏む。

お雪は快癒したが、愛八はお雪の後事を古賀に託する手紙を書いて、昭和8年12月脳溢血にて没す。

死んだ愛八の家は、壁は汚れ、襖は破れ、割れたまんまの窓ガラスの隙間から師走の風が音をたてて吹っ込んでいた。水道も電気も止められ、ローソク1本もなく行灯をともすこともできなかった、まったくの無一物、清々しいというより壮絶な死に方であったのだろう。

花月のおかみから臨終の席で「愛八との約束で黙っていたけど、入院代の支払いはすべて愛八がしたこと、身代わり天神様にお百度を踏んでいた」という話をきかされた当のお雪は声をあげて泣いたというが、このくだりを読んで小輩も思わず貰い泣きした。

他人のためになんでそこまでやれるのか、「真面目さと気ッ風のよさ」だけでここまで献身的なことが出来るのだろうかと思わずにはいられない。多分その人の人間性と思うが「愛」というのは理屈ではない。理屈でないから感動があるのだろう。

この小説は、東映で映画化、愛八役を吉永小百合・古賀十二郎役を渡哲也。脚本市川森一の豪華キャストによって、全国で上映される。豊かな昨今の生活の中で、日本人が忘れかけていた人情の機微に触れ、涙するひと時もあってよいのではなかろうか。

長崎観光振興のため、「映画を成功させる会」が発足、島原商工会議所も協力しており詳細は会議所にお尋ね頂きたい。

(島原商工会議所会頭)

 

2000年(平成12年)9月

 

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