ちょっといっぷく 第91話

第91話 大東亜戦争への道 日清戦争

 

軍閥よく国を興し、軍閥また国を亡ぼす。これが明治維新から80年の日本の歴史であった。明治革命によって生まれた新しい日本は、世界の前ではまことに弱い小さな国であった。

汽車は未だ走っていなかった。第1回の観艦式に集合した全海軍力は、フランスの巡洋艦1隻に及ばなかった。陸軍の将兵は草鞋をはいて、腰に弁当を下げていた。この国が、38年の後に世界の一流国家に成長しようとは、何人も予想するものはなかった。

国は小さかったが、人の心は強く大きかった。特に、革命を指導した若い政治家達は、この国を世界の一大文明国に仕上げるために、骨身を削って努力した。国を愛する国民は、その指導に応え、犠牲に甘んじ、乏しきに堪え、よく学び、よく働いた。かくて小日本を大日本に築き上げることに成功したのである。

伊藤正徳著・軍閥興亡史序文の一節である。

渡部昇一氏(上智大学名誉教授)が言っているように、日本の近代史を読む場合いちばん抜けやすいのは軍事史である。日清戦争、日露戦争を戦った日本の歴史を軍隊抜きでは所詮無理なのである。今の日本に必要なのは、明治以来の日本の歴史を日本の立場から見直すことである。その見方が朝鮮や支那の立場から見たものと異なっていてもそれは当然である。史実についてウソがなければよいので、解釈がお互いに違っていても当然なのだ、と述べている。同感である。

日清戦争のきっかけは、明治27年の東学党の乱である。東学は、李朝打倒・外国排撃をスローガンとする新興宗教で、この東学の信者を中心にして朝鮮各地で農民が反乱を起こした。これを好機とみた清国が朝鮮に出兵したのがそもそもの始まりである。

清国出兵の口実が「属邦保護」のためとあったがために、時の外務大臣・陸奥宗光は「挑戦が清国の属邦であることを認めるわけにはいかぬ」として、条約に従って出兵を決意「日清両国が協力して朝鮮の内政改革に当たろうではないか」と清国に提案したが拒絶され、やむなく開戦になったのである。

日清戦争は、今日では「余計な戦争」というような言われ方もある。結果だけみれば、ロシア、ドイツ、フランスの3国の武力干渉によって、せっかく得た遼東半島を失ったわけだから、そういう言い方もあろう。また、日本がなぜ朝鮮、清国までいって戦争をしなけてばならなかったのか、いらぬお節介ではないかという素朴な疑問も残る。

当時の朝鮮の内情や清国の介入、特にロシアの脅威を考えると日本防衛のためには、避けられない戦争であったろうと思われる。

福沢諭吉の思想は、東洋各国の押し寄せる欧米勢力に対してわが国の独立をまもるには、アジア隣邦をして近代文明国家たらしめ、共に独立を全うして西力東漸を防がねばならないということを、家事予防の例え話でそれを説いている。

「火事は、自分の家だけ石造りにしても隣近所に不完全な木造家屋があれば、決して安心はできない。だから火災を防ぐには、万一の時は隣近所を応援するのは勿論だが、何事もないときに、そこの主人と相談して自分の家と同じ石造りの家屋を造らせることが大切だ。場合によっては強制的に作らせてもよい。これは隣家を愛するためではない。又、憎いからでもない。ただ自分の家が類焼するのを恐れるからだ。」

非常に割り切った、しかし自存自衛のためにはやむを得ないギリギリの時局認識であったろう。

日本の世論を挙げて、この開戦を「朝鮮の独立を助ける義戦」と歓迎した。クリスチャン内村鑑三も「朝鮮を保護国化しようとするシナを挫くために日本は戦うのだ」と英文で「日清戦争の儀」という文章を世界に向けて発表している。

明治27年(1894年)8月1日、日清両国は宣戦布告、日本軍は平壌を占領、翌17日わが海軍は黄海に北洋艦隊を撃破した。10月に入り、第1軍(司令官、山県有朋陸軍大将)は満州に進み、第2軍(司令官、大山巌陸軍大将)は旅順を占領した。第1軍、第2軍は兵を合わせて首都北京に迫らんとした。

世界の予想を裏切って日本は清に圧勝した。敗色明らかとなった清はついに講和を申し込んできた。講和談判は下関の春帆楼で、わが国全権・伊藤博文及び陸奥宗光、清国全権・李鴻章、李経方父子の間で行われ、明治28年4月17日に調印された。

①朝鮮の独立を承認すること

②遼東半島、台湾島の割譲

③軍費賠償金2億両(テール)の支払

等が骨子であったが、この条約調印後1週間も経たない4月23日、露・仏・独の3国は、日本に対して「遼東半島を清に返還せよ」と要求した。

いわゆる三国干渉である。

軍事的にも財政的にも三大強国を相手に新たな戦いを起こす余力のない日本は、涙を飲んで『勧告』を受諾、遼東半島を清国に還付した。

この三大干渉こそが東亜50年の禍根となるのである。

2003年11月26日

(前島原商工会議所会頭)

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