ちょっといっぷく 第48話

第48話 バーガー王 藤田田の物語

 

「平日半額」ハンバーガーで、増収を続ける日本マクドナルドの藤田田社長が今年も高額納税者全国27位(前年2位)に名を連ねている。彼の持論である「勝てば官軍」の主張には、いささか異論があるが、彼は北野時代の同級生である。

文芸春秋6月号が現代のカリスマ10人の大特集を組んでいるが、その中の一人として彼のことが掲載されていた。

今年、創立30周年を迎えて4千億円企業になり、夏には株式を店頭上場するという。

来るべき少子高齢化で、デフレ時代を予測、デフレ時代では、発想をガラリと変えなくてはならない。一強百弱、強いところは益々強くなり弱いところは滅んでいく。前向きな取組こそがお客様に支持されるという信念でハンバーガーの安売りをやり、のし上がった。

収入が増えず物価も下がるデフレ下にあっては、1割2割引き程度では誰も店に来てくれない。そのものズバリ半額で売りだしたら5倍売れるようになった。3月には会社開闢以来最高の月間売り上げを記録したそうだ。ものが売れれば販売管理費が圧縮されるので利益も出る。

彼は利殖のエキスパートとしても有名だが面白い話をしている。「こういう時代には貯金にも強い意志が不可欠。50年前に毎月5万円の貯金を始め、それが10万円になり今は15万円ずつ貯めている。途中一度も手をつけず、元本と利息でいまや3億1,000万円になった。強い意志と忍耐力があれば、3億円だってたまる。50年でなくても30年で1億円はたまる」と。一念発起しても、我々にはもうあとがないが…。

「マックビジョン」は500店舗に42インチのモニターを置いて、朝から晩まで広告料を取ってコマーシャルを流している。テレビで15秒、30秒のCMを流したところで知れている。ハンバーガーを食べるのに20分かかるとして、その間じっとマックビジョンを見てくれる。テレビCMよりよっぽど効率がいい。島原にはCATVがある。ヒントにならないか。

彼が北野時代の思い出話を同級生仲間の記念誌に投稿している。

旧制松江高校を受験するとき内申書を取りにいった。担任の先生が「君がやんちゃで悪戯坊主で、その上勉強も余りしないと書いておいた。鍛え直してもらうつもりでかなり厳しい内容になっているから、その分筆記試験を頑張らなくてはだめだぞ」と真剣な顔で話された。どんな悪いことが書いてあるのかどうしても知りたくなり、自宅に戻ってから内申書が入っている封筒ののりしろの部分にお湯をあてがい、そっと中身をのぞいた。驚いたことに「品行方正、成績優秀な生徒をぜひ貴校に推薦致したい。万が一試験当日体調を崩し、試験の結果が思わしくない場合にも平素大変よく出来る子なのでよろしくお願いします」とあった。口先ではやかましいことを言いながらも、実際にはその人を心から応援する暖かい措置をとってあげる…これが人を育てるコツであることを学んだ。この一件がその後の人生に大きな影響を与えたと書いている。

戦後の東大法学部出身では、彼がただ一人の起業家だそうだ。おカネを墓場に持っていくといったって、棺桶に札束詰めても4億円しか入らない。おカネで残さず事業の形で残そうと「ドナルド・マクドナルド・ハウス」(社会事業)を進めているのだそうだ。

彼ならではの壮大な幕引を考えているのだろう。

(島原商工会議所会頭)