ちょっといっぷく 第5話
第5話 パリーからの手紙
小生、昨年3月まで長崎県石油組合理事長や全国石油組合連合会理事等を務めた。
戦国時代の石油業界にあって、立場上中央で通産官僚と丁丁発止とやり合った。
当方の言い分は、グローバルスタンダード(世界標準)は、弱肉強食のアメリカンスタンダードであり、ルールなき規制緩和は国内企業の9割方を占める中小企業の破滅を招く。
強者のみが生き残って寡占状態になることは、決して消費者の利益にならない。公正な競争こそわれわれが望むところであり、そのための最低限のルールをつくるよう主張し続けた。
当時の資源エネルギー庁石油部・M流通課長に強く要望したが、彼曰く「全く同感だけど政治家のみなさんが“競争させろ、もっと競争させろ、そうすれば価格はもっと安くなる”というんだ」。
そのころ大蔵省を始めとする不祥事件が相次いでおり、官僚は意気消沈、元気がなかった。
「日本の官僚は、一部の連中を除いていまでも世界一優秀だとわれわれは信じている。自信をもって国家のために働いてほしい」と激励したものである。
現今の腐敗構造を見るにつけ、日本の将来は大丈夫かなという思いがある。
しかしさすが日本の官僚体制、国家百年の大計のなかで優秀な官僚の育成は着々と進められている。その一つに留学制度がある。
私的なことで恐縮だが、小生の甥の子供に原昌史(まさのぶ)というのがいる。東大法学部を卒業後上級職試験に通り自治省に入省、高知県に出向していたが、現在自治省の命令でパリーに留学中。
彼から手紙をもらった。一部を紹介する。「留学生活も半年を迎え、ようやく、大学での授業もわかり始めましたし、なにより、各国の友人達と国境を越えて様々なことを議論するのは極めて興味深い経験です。
特に、日本人として美学と思っていた『沈黙、言わなくても相手の思っていることを慮ること』が海外では、何も意見を言わないつまらない人として映ってしまうことが感覚として理解できたことは何よりの収穫です。
その意味で、外国人から見てもおもしろい情報発信型人間になるべく頑張っております。
それから、自治省に入省したときに、内務省以来の格言として訓辞された三惚主義“地方に惚れ、仕事に惚れ、妻に惚れろ”を実践して、徹底的にフランスに惚れてみようとフランスの各地をまわって楽しんでおります。
つい先日も水で有名なエビアンを訪れ、現地の人に飲料水産業についていろいろな話を聞かせてもらってきました。
スポンジのように、ありとあらゆることを吸収して、政府の役に立つ奴になって帰国する所存です。」(原文のまま)
そういえば、松平家第20代当主、松平忠貞さんの令息・松平忠承さんも大蔵省からパリーに派遣され勉強中の筈。(島原商工会議所会頭)
2000年(平成12年)6月28日