ちょっといっぷく 第2話
第2話 日本経済の行方とタイタニック号
植草一秀氏(野村総研上席エコノミスト)の講演を聞いたことがある。
そのときの講演要旨は、文芸春秋の5月号に掲載されている。
内容は、90年代の経済の長期低迷は、政策の迷走に起因。事態改善のテコ入れ策と、政策の逆噴射、典型的なストップ・アンド・ゴウのタイミングの悪さとともに日本経済をいちじるしく傷つけてきたという。
この先、日本経済を改善するためには、なによりも景気回復が最優先されるべきで、そのあとに財政再建を中期的に進めるのが正しい政策の手順であるとのべている。
ゼロ成長を2%のプラス成長に引き上げるためには、人為的に需要を追加することが必要、ひとたび2%のプラス成長が生まれるなら、生産の増加は所得増加につながり、所得増加は支出増加につながり、支出増加は次の生産増加につながってゆくから、いわゆる自律的な拡大サイクルが始動していく。
92年以降、米国で経済の長期拡大が実現した最大の背景は、政策がプラス成長を実現するところまで景気回復優先の施策をつらぬいたからである。一部の為政者から出始めている緊縮へのシフトは、ふたたび政策への逆噴射となりかねない、と説く。
彼はこの講演のとき、タイタニック号の話をした。
タイタニック号は、総トン数4万6000トン1912年の処女航海で氷山に衝突、死者1513人をだした世界最大の海難事故である。映画になり世界の人々に感動をあたえたので、ご承知の人は多いと思う。
遭難時に全くリーダーシップを発揮できなかったスミス船長のふがいなさ、経験にあぐらをかいた船長によって1500余人の生命をうばわれたとも言える。
植草氏の話は、乗員乗客約2200人のうち約700人が生き残った。しかし700人どころか全員が生き残る方法があったのだという。それは船長が氷山との衝突を避けて舵(かじ)を大胆に切り直せば一人も死ななくてすんだのではないか、という話。
1億2000万人乗り組みの日本丸を沈没させないために、政治家のみなさんには、しっかりした舵とりを願いたいものだ。(島原商工会議所会頭)
2000年(平成12年)6月10日