ちょっといっぷく 第11話
第11話 雪印乳業事件とほうれんそう
「築城3年、落城1日」
雪印が75年にわたって営々として築きあげてきた信頼のブランドは、近畿一円で約1万4,000人にも達する集団食中毒事件の発生で一瞬のうちに音を立てて崩れ落ちた。雪印乳業は、1925年に雪印の前身、北海道製酪販売組合が設立され、創業者の一人であった黒沢酉蔵という理想主義者の徹底した品質管理が会社の理念となる。
牛乳を取り扱うので、きゅう覚、味覚の正確さを維持するため技術系だけでなく全従業員に禁酒禁煙を誓約させた。保証人連署まで出させる徹底ぶりで70年代まで続いた。工場の現場は衛生管理のため全員丸刈りとなった。
雪印の「スノーブランド」が、乳製品のトップブランドになったのは、販売網の強さや新製品だけではない。創業者の強烈な理想主義が、社員や酪農家、消費者に浸透し信頼されてきたためだ。(日本経済新聞「経営の視点」より)
その輝かしい伝統の上に、あぐらをかいた驕(おご)りの結果だろうか、組織の目づまりを起こして、信じられない醜態をさらけだした。
消費者を無視して企業の存続は有り得ない。安全で良い商品を世に送り出すというメーカーの誇りは、何処へいったのだろうか。
洗浄など日常の点検やメンテナンスが十分に行われなかったため起きた事件といわれるが、現場の職人は、自分の使う機械器具については、なめても良いくらいピカピカに磨きあげている職場を我々は沢山知っている。それが職人魂であり基本の基本であろう。
社長や経営陣の対応は、最悪である。普段から情報の交換や伝達がスムーズに行われていなかったように思われる。
漫画に出てくるポパイは、ホウレン草を食べてもりもりと元気をだすが、会社のほうれんそうは、[報]告・[連]絡・[相]談の三位一体、『報・連・相』こそ会社を生き生きとさせる原動力だ。日頃から『ほうれんそう』を密にし、組織の風通しを良くしておけば、ミスやトラブルは未然に防げるし、例え起こったとしても迅速で適確な対応策を講ずることが出来るはずである。
我々は、この事件を他山の石として、安全対策や危機管理を点検すべきだ。
(島原商工会議所会頭)
2000年(平成12年)8月8日