ちょっといっぷく 第65話

第65話 5年後こうなる

日本の将来はどうなる、大丈夫なのか。

巷間こういった議論が盛んである。概して悲観論が多い。

日下公人という人がいる。

一度聞いたら頭に残る珍しい名前だが、東大経済学部卒業後、日本長期信用銀行入行、取締役を経て、現在㈳ソフト化経済センター理事長・東京財団会長など勤務中で、未来予想の正確なことには定評がある。

この人が書いた「5年後はこうなる」という本を読んだ。非常にわかりやすく、アイデア一杯で、いささか楽観的過ぎはしないかと思われるが、無理をしない、いわば自然流の考え方で共鳴するところは多い。

例えばこうである。

日本では「相互信頼社会」が復活するという。

「まあまあ、なあなあ」とか、傷口を舐めあうのが度を過ぎていた点は、直さなければならないが、はるか江戸時代から続いている相互信頼社会が見直されつつある。

社員を首切れば、短期の単純計算では、会社は良くなる。しかしこのやり方では揺り戻しが必ず起きる。社員が委縮して上のいう事しかやらなくなったりする副作用もある。リストラされる人とは賃金の要求を下げない人である。「会社が辞めさせよう」と思うのは賃金が高すぎる人である。

今までは「年功序列賃金」であり、これは社会主義あるいは官僚統制下の賃金である。

今後は払う人ともらう人が相談で決めるようになる。業績に比例して貰うという制度へ移行するようになる。しかし最高の賃金制度などどこにもない。それぞれの会社に合わせ、社員に合わせ、歴史に合わせ、街の雰囲気に合わせてつくり、時々手直しするしかない。現実主義ということである。

アメリカでも、成長している会社は結果として終身雇用になる。現実主義になれば、自分から賃金の引き下げも時には言う。賃金引き下げが可能になれば、リストラの必要もなくなるというわけだ。

デフレについて。

デフレはこのまま続き、かといってデフレスパイラルで大破局にはならないだろう。

昭和初期のデフレ時代と今では全く違う。当時は「娘を売る」という本物の貧困が存在した時代で、経済水準が根本的に違う。

日本のデフレの一番大きな原因は、日本人には欲しいものがないのである。こんな国は、世界中どこにもない。

アメリカも豊かだが、貧しい移民が入ってくるからこの人たちには欲しい物がある。だからアメリカ全体としてはまだ消費意欲旺盛な国なのである。

日本ではみんな中流になってしまい、マイホームを持っていて、退職金があって、年金がついて、バブル時代には多少の贅沢も体験したから、未知の贅沢への憧れが消えている。だから欲しい物はない。政府がやるのは生活保護だけで、デフレ対策などする必要はない。

道路も鉄道も学校も病院も発電所も美術館もつくりすぎた。さらに貯蓄がある。年金もある。それから犯罪が増えない(?)。自殺が増えるだけ。こんな国はかつてなかった、過去の経済学は貧乏経済学だった。消費不振とは、欲しいものがあるのに買えない状態をさしていた。今の日本は世界のGDPの2割を占めるような大国で、その国民が「欲しい物がない」という。こんな国がこの世にあるとは未だかつて想像した人はいない。だから経済学者や経済評論家の未来予測がすべて当たらなくなった。

これから先は文化創造や心理学の領域である。心理学者が経済担当大臣になるであろう。

…とまあこんな具合である。

次号でさらに続けたい。

(前島原商工会議所会頭)

2003年5月28日

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