ちょっといっぷく 第54話

第54話 般若心経

昨年末、望洋会会長の伊崎周介君が亡くなった。

彼は五高・九大医学部を即行、西有家町で外科医院を開業していた。ご令息が現在同地で眼科医院を開業中である。

剛毅朴訥を地でいくような快男児であったが、絵も描くし、詩もつくる。同窓会の席上では東海林太郎に扮して「国境のまち」などをよく歌っていた。なかなかの才人であった。昭和48年8月15日、旧藩主松平家の紋どころ『重ね扇』が刻み込まれた切子灯篭を満載した精霊船『望洋丸』を、今は亡き恩師、豊増大吉先生にご参加いただき、島原城本丸から威勢よく船出させた。

同級生の中には、3~4人の住職がいるのだが、盆はお寺の稼ぎ時であり、手すきの坊さんがみつからない。「俺でよかろうかい」と名乗り出たのが、故伊崎周介君。彼の音吐朗々たる『般若心経』の読経で無事におくだりしたことを思い出す。

 般若心経ははるかなる昔、お釈迦様によって説かれ、長く先祖から受け継がれてきた仏教思想の精髄が最小限の言葉で凝縮された経典である。(日本仏教学院長 菊村紀彦)

 読経するにも音楽的で、写経するにも文字が整然とした、美しいお経である。

臨床心理学の第一人者、河合隼雄(はやお)氏は、大きなストレスから自分を解放させるためには「般若心経」を唱えることがとても有効的であると説く。言葉について考えるのではなく、同じことを繰り返し繰り返し一言一句漏らさずに繰り返すことが大事。訳はわからなくていい。とにかく唱える。へたに解釈してはいけない。ありがたいと思うことが重要である。

わずか262文字。数あるお経の中でも「般若心経」は最も短いお経である。

 

『般若波羅蜜多心経』

観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空

(かんじざいぼさつ ぎょうじんはんにゃはらみつたじ しょうけんごうんかいくう)

度一切苦厄 舎利子 色不異空 空不異色 色即是空 空即是色

(どいっさいくやく しゃりし しきふいくう くうふいしき しきそくぜくう くうそくぜしき)

受想行識亦復如是 舎利子 是諸法空想

(じゅそうぎょうしきやくぶにょぜ しゃりし ぜしょうほうくうそう)

不生不滅 不垢不浄 不増不減 是故空中 無色

(ふしょうふめつ ふくふじょう ふぞうふげん ぜこくうちゅう むしき)

無受想行識 無限耳鼻舌身意 無色声香味触法 無限界

(むじゅそうぎょうしき むげんにびぜつしんい むしきしょうこうみそうほう むげんかい)

乃至無意識界 無無明 亦無無明尽 乃至無老死 亦無老死尽

(ないしむいしきかい むむみょう やくむむみょうじん ないしむろうし やくむろうしじん)

無苦集滅道 無智亦無得 以無所得故 菩提薩埵 依般若波羅蜜多故

(むくしゅうめつどう むちやくむとく いむしょとくこ ぼだいさつた えはんにゃはらみつたこ)

心無罣礙無罣礙故 無有恐怖 遠離(一切)顛到無想 究竟涅槃

(しんむけいげむけいげこ むうくふ おんり(いっさい)てんとうむそう くきょうねはん)

三世諸仏 依般若波羅蜜多故 得阿耨多羅三藐三菩提

(さんぜしょぶつ いはんにゃはらみつたこ とくあのくたらさんみゃくさんぼだい)

故知般若波羅蜜多 是大神咒 是大明咒 是無上咒

(こちはんにゃはらみつた ぜだいじんじゅ ぜだいみょうしゅ ぜむじょうじゅ)

是無等等咒 能除一切苦 真実不虚

(ぜむとうとうしゅ のうじょいっさいく しんじつふこ)

故説般若波羅蜜多咒 即説咒日

(こせつはんにゃはらみつたしゅ そくせつしゅわつ)

掲帝掲帝 波羅掲帝 波羅僧掲帝 菩提僧莎訶般若(波羅蜜多)心経

(ぎゃていぎゃてい はらぎゃてい はらそうぎゃてい ぼうじそわかはんにゃ(はらみつた)しんぎょう)

 

最後の「掲帝」以下は【彼岸に行ける者よ幸あれ】という意味だそうだ。

「声に出して読みたい日本語」(斎藤孝著)による。

(元島原商工会議所会頭)

2003年2月25日

 

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